【感想】A子さん(四〇歳・河童) 西原天気
- 2014/06/15
- 13:37
A子さん(四〇歳・河童) 西原天気
【浪人生、教師、無職、フリーター、主婦、河童】
この俳句を読もうとするときに、どうやって読んだらいいのか見当がつかないんですが、それでもじゃあなぜじぶんはこの句が気になってしまうんだろうというところからてさぐりではじめてみます。
まずこの句のおもしろさは、よく雑誌にみられるような投稿者の名前表記の言説を借用しているところにあるとおもうんです。これは、形式としての引用であり、形式はそのままに内容を変えることによって成立しています。たとえば、このとなりに、「桜子さん(二十八歳・主婦)」と並んでいてもいいわけです。
そんなふうにこの表記がどのようなものと範列関係にあるか、選択関係にあるかをさぐってみるとだんだんみえてくるものがあるのではないかと。
この句にたちかえってみると、名前は匿名の「A子」です。にもかかわらず、中五下七においてあらわれるのは「四○歳・河童」という具体性です。ここにこの句の転倒の力が起こっているんじゃないかとおもいます。
職業が「河童」であるという点において、彼女の名前が、アヤカでもサクラコでもジェシーでもロクジョウノミヤスンドコロでも、つまり名前によって枝分かれするような職業ではなくて、それらをいっさいがっさいひっくるめておしならべるようなインパクトのある、わたしたちが容易に記号化できないような「河童」という職業=属性なわけです。
ところが、「A子」さんにとっては「A子」と匿名表記したように、「河童」であることよりも「名前」を意識し、「名前」を隠したかったわけです。
「河童」という社会的属性よりも、「名前」という自分がゼロ属性のなかで差異化される記号を優先したこと。もっといえば、この「A子」さんが「河童」でありつつも「河童」ではない世界を生きようと、いや生きつつあること。
それがこの句の下五を読み終わったときに「河童」にたちもどってがらっと転倒することのおもしろさなのではないかとおもいます。
湯冷めして地球最後の日の河童 西原天気
【浪人生、教師、無職、フリーター、主婦、河童】
この俳句を読もうとするときに、どうやって読んだらいいのか見当がつかないんですが、それでもじゃあなぜじぶんはこの句が気になってしまうんだろうというところからてさぐりではじめてみます。
まずこの句のおもしろさは、よく雑誌にみられるような投稿者の名前表記の言説を借用しているところにあるとおもうんです。これは、形式としての引用であり、形式はそのままに内容を変えることによって成立しています。たとえば、このとなりに、「桜子さん(二十八歳・主婦)」と並んでいてもいいわけです。
そんなふうにこの表記がどのようなものと範列関係にあるか、選択関係にあるかをさぐってみるとだんだんみえてくるものがあるのではないかと。
この句にたちかえってみると、名前は匿名の「A子」です。にもかかわらず、中五下七においてあらわれるのは「四○歳・河童」という具体性です。ここにこの句の転倒の力が起こっているんじゃないかとおもいます。
職業が「河童」であるという点において、彼女の名前が、アヤカでもサクラコでもジェシーでもロクジョウノミヤスンドコロでも、つまり名前によって枝分かれするような職業ではなくて、それらをいっさいがっさいひっくるめておしならべるようなインパクトのある、わたしたちが容易に記号化できないような「河童」という職業=属性なわけです。
ところが、「A子」さんにとっては「A子」と匿名表記したように、「河童」であることよりも「名前」を意識し、「名前」を隠したかったわけです。
「河童」という社会的属性よりも、「名前」という自分がゼロ属性のなかで差異化される記号を優先したこと。もっといえば、この「A子」さんが「河童」でありつつも「河童」ではない世界を生きようと、いや生きつつあること。
それがこの句の下五を読み終わったときに「河童」にたちもどってがらっと転倒することのおもしろさなのではないかとおもいます。
湯冷めして地球最後の日の河童 西原天気
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