【感想】しあわせにしてますように でも少しわたしが足りていませんように 月夜野みかん
- 2015/08/20
- 23:30
しあわせにしてますように でも少しわたしが足りていませんように 月夜野みかん
【足りないものは、なんですか?】
この歌っていろんなふうに解釈がとれるようにできてるとおもうんですね。
たとえば、「(あのひとが)しあわせにしてますように でも少し(あのひとの)わたしが足りていませんように」とすることもできるし、「(未来のわたしが)しあわせにしてますように でも少し(未来のわたしの)わたしが足りていませんように」とすることもできる。
つまりこの歌で《あえて》なによりも〈足りていない〉のは、このかっこ( )のなかの主格だとおもうんです。だからこそ、この歌は〈足りない〉ことによっていろんな方向性をとることができる。〈足りる/足りない〉の意味も変わってくる。まずひとつ、そういう歌なんじゃないかとおもうんです。そのいろんな方向性がこの歌が形式としてとる〈しあわせ〉であり、かつ、〈足りていない〉ぶぶんなんじゃないかと。
かんがえてみると、しあわせっていうのは、仕合わせ、ともいう。しあわせっていうのは、つじつまを合わせることであり、一義的な形式をとってしまうことなんですよね。ふしあわせをおいはらうことなんですから。だからこの歌でも「でも」と逆接をつかっている。しあわせになることは、あるベクトルにかたまったアンバランスになることだから、そのバランスをわかっていたいがために「でも」と語り手は発話した。
人を救うってのは、人を殺すのと同じぐらい罪なことです。人は生きたいと思うぶんだけ、死にたいという願望も持ってる。そのバランスをいつもわかっていたいと思う。 岩松了『カラマーゾフの森』
否定したものがいつか、どこかでつながってはくるだろうと期待しつつ、この歳まで続けてきた 岩松了『キネマ旬報2004*9』
岩松了さんはこんなふうによくどっちにも偏らない、正負をふくみあわせるような語り方をするけれど、すこしみかんさんの短歌と似ている風合いがあるなとおもうんです。
「しあわせ」は「しあわせ」でいいのだけれども、「しあわせ」というのもまたひとつの〈偏差〉だということは、理解しているということ。そういう理解を形式化したのがみかんさんの短歌なのではないかとおもうんです。
満ち足りたわたしであっても、足りない、と感じるわたしも残しておきたい。しあわせでぱんぱんになったときはみかんさんの短歌を読み返して、そのバランスを思い出そうと、おもうのです。
粉砂糖ひとさじ掬ひわたくしに足りないものは何ですかと問ふ 栗木京子
【足りないものは、なんですか?】
この歌っていろんなふうに解釈がとれるようにできてるとおもうんですね。
たとえば、「(あのひとが)しあわせにしてますように でも少し(あのひとの)わたしが足りていませんように」とすることもできるし、「(未来のわたしが)しあわせにしてますように でも少し(未来のわたしの)わたしが足りていませんように」とすることもできる。
つまりこの歌で《あえて》なによりも〈足りていない〉のは、このかっこ( )のなかの主格だとおもうんです。だからこそ、この歌は〈足りない〉ことによっていろんな方向性をとることができる。〈足りる/足りない〉の意味も変わってくる。まずひとつ、そういう歌なんじゃないかとおもうんです。そのいろんな方向性がこの歌が形式としてとる〈しあわせ〉であり、かつ、〈足りていない〉ぶぶんなんじゃないかと。
かんがえてみると、しあわせっていうのは、仕合わせ、ともいう。しあわせっていうのは、つじつまを合わせることであり、一義的な形式をとってしまうことなんですよね。ふしあわせをおいはらうことなんですから。だからこの歌でも「でも」と逆接をつかっている。しあわせになることは、あるベクトルにかたまったアンバランスになることだから、そのバランスをわかっていたいがために「でも」と語り手は発話した。
人を救うってのは、人を殺すのと同じぐらい罪なことです。人は生きたいと思うぶんだけ、死にたいという願望も持ってる。そのバランスをいつもわかっていたいと思う。 岩松了『カラマーゾフの森』
否定したものがいつか、どこかでつながってはくるだろうと期待しつつ、この歳まで続けてきた 岩松了『キネマ旬報2004*9』
岩松了さんはこんなふうによくどっちにも偏らない、正負をふくみあわせるような語り方をするけれど、すこしみかんさんの短歌と似ている風合いがあるなとおもうんです。
「しあわせ」は「しあわせ」でいいのだけれども、「しあわせ」というのもまたひとつの〈偏差〉だということは、理解しているということ。そういう理解を形式化したのがみかんさんの短歌なのではないかとおもうんです。
満ち足りたわたしであっても、足りない、と感じるわたしも残しておきたい。しあわせでぱんぱんになったときはみかんさんの短歌を読み返して、そのバランスを思い出そうと、おもうのです。
粉砂糖ひとさじ掬ひわたくしに足りないものは何ですかと問ふ 栗木京子
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